奥村グループの方針


 この文章を読んでいらっしゃる方の中には大学院生やポスドクとしてこれから研究室を選ぼうという方もいらっしゃるかもしれません。研究室選びにおいては研究テーマはもとよりその研究室の主宰者の思想も重要なファクターになります。研究の遂行に関して私なりの考えを以下に述べますので参考にしていただけたら幸いです。

1.研究室に入ったら:基礎勉強~研究テーマの設定
 私の研究室に配属された学生さんやポスドクの方にはまず2~3か月かけて研究に必要な基礎勉強をしてもらいます。具体的には解析力学、統計力学などの復習、分子動力学シミュレーション、タンパク質科学の基礎、プログラミングなどを指導しています。その間個別に対話することで個々の興味や特性を把握し、それに応じた研究テーマを設定します。
 当研究室では分子動力学シミュレーションを用いた生体分子の研究を行なっています。ここ数年は生体分子が引き起こす病気の発症メカニズム解明に関する研究を主な対象としてきました。一方で、分子動力学シミュレーションの手法開発にも興味をもっています。研究室メンバーの希望があれば、分子動力学シミュレーションにおける新しい手法の開発からさまざまな様々な病気の応用まで、私の能力の及ぶ限り相談に乗りたいと思います。
 研究は自分が楽しいと思えるテーマを行なうことが重要です。ボスから無理やりテーマを押し付けられた場合には、なかなかやる気がでませんしその人の能力を十分に引き出すことはできません。メンバー個々の自主性をなるべく重んじたいと思っていますので、研究テーマに希望がある方は遠慮なく言ってください。
 とは言っても分子動力学シミュレーションを初めて行なうという人の場合には何を研究テーマに選んでいいかわからないということも多いと思います。その場合は私の手持ちのテーマからなるべくその人の性格、能力にあったものを選んで取り組んでもらうことになります。研究テーマを1つ1つこなし、論文を何本か書くうちに自分なりに適切な研究テーマを設定できるようになってください。

2.研究テーマを決めたら
 テーマを設定したら研究が軌道に乗るまで私は手厚く学生、ポスドクの面倒をみます。個々のテーマに応じて、シミュレーション手法の開発、プログラミング、シミュレーションの実行の仕方など必要があれば毎日のように手取り足取り指導します。そこまですればたいていの人は研究のノウハウを獲得できます。その間何かできたら学生、ポスドクを褒め、小さな成功を繰り返し体験させて自信をつけさせます。
 一方、研究が軌道に乗ったらその後はあまり干渉しないようにしています。干渉しすぎて毎日のように研究結果の提示を求めると学生、ポスドクにとってプレッシャーになってしまうからです。学生、ポスドクが「先生、こんな結果が出ました!」と言ってくるまで時には1週間でも2週間でも気長に待ちます。その姿勢が学生やポスドクにとって「先生は私を信頼してくれている」との安心感や自信につながっているようにも思えます。そして成果を持ってきたらどんな結果であろうとまずは褒め、それから次に行うべきシミュレーションや解析の手順を具体的に提示します。これを繰り返し、学会発表、論文執筆まで導いています。

3.成果発表
 研究成果がでれば研究室のメンバーにもなるべく出張して学会発表してほしいと思います。予算の許す限りではありますが、国内での学会発表には年に2、3回、海外での学会発表にも毎年1回くらいは行ってしてほしいと思います。頻繁に学会発表できるだけの成果を出してください。
 論文についても修士課程学生は2年間で1本、博士課程学生は3年間で2、3本、ポスドクは毎年1本くらいを目標に書いてもらえばと思っています。実際、今までのメンバーにはそれくらい書けるように研究指導してきました。

4.プログラムはできる限り自分で書く
 近年、パッケージプログラムを使って分子動力学シミュレーションを行なう研究者が増えてきました。私が学生だった頃はシミュレーションに使うプログラムを自分で書く人も割といましたし、私自身は自分で書いたプログラムを使って研究をしています。しかし、研究対象が年々複雑化してきているのに伴い、パッケージプログラムを使わざるを得ない状況も理解します。それでもできればプログラムは自分で書くことをお勧めします。
 パッケージプログラムを使うことのメリットは誰でも簡単にシミュレーションを行なえることです。しかし、それではどのように分子動力学シミュレーションを行なっているのかなかなか理解できません。またパッケージプログラムに組み込まれている機能だけで研究が完遂するとは限りません。それぞれの研究の局面に応じてプログラムを改変しなければならないこともあります。その場合、プログラムの中身をよく理解できていないと書き換えることができません。書き換えることができても、別の部分で予期せぬ結果を引き起こすこともあります。
 たとえ数ヶ月プログラム作りに費やしたとしても、そのほうが自身の研究能力を高めることができ、長い目でみればより良い研究ができると思っています。

5.研究室滞在時間、出勤時間
 研究室で研究を行なう時間帯は各自で自由に決めてください。朝早くから研究を始めて夕方早めに帰宅してもいいですし、昼過ぎから夜遅くまででも結構です。他人の迷惑にならない限り、すなわち議論やセミナーなどで人と待ち合わせをした場合などを除いて、好きな時間帯に研究してください。

 私の研究室を検討される方はご連絡ください。一度見学に来たからといって無理やり引き込むようなことはしませんのでお気軽にどうぞ。

奥村久士
自然科学研究機構 生命創成探究センター
自然科学研究機構 分子科学研究所
自然科学研究機構 計算科学研究センター
総合研究大学院大学 構造分子科学専攻
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