2.4 生体分子系以外の研究

奥村は生体分子系の分野に入る前はレナード・ジョーンズ粒子系のシミュレーションを行っていました.生体分子系以外に興味のある人も歓迎します.

1.分子動力学と流体力学の比較
 シミュレーションにより流れを調べるには2つの方法があります.1つは分子動力学で,もう1つは流体力学です.流体力学は巨視的な理論なので原子レベルの小さな系での流れは正しく記述できないと思わるかもしれません.そこでその限界を調べるため,膨張・収縮する気泡や熱伝導をともなう流れなどについて両者を比較したところ,数ナノメートル程度の小さなスケールでも流体力学を信頼できることがわかりました.

2.気液臨界定数を計算する新しい分子シミュレーション手法の開発
 気液臨界定数を計算する従来の方法には,概算値だけを知りたい場合でもわざわざ気液共存線全体を計算しなければならず計算時間がかかっていました.そこで粒子間ポテンシャルから臨界定数を直接概算できる経験則を見出しました.また臨界点近傍ではシミュレーションを安定に行うのが難しく,臨界定数を精度よく求めることができないという問題もありました.そこでNVT +テスト粒子法が臨界点近傍の共存線を計算する有力な方法であることを示し,これまでの文献値よりも精度よく臨界定数を計算することに成功しました.

3.体積粘性率の新しい公式
 分子動力学シミュレーションにより体積粘性率を求めるには,従来は圧力の相関又は圧力の緩和による公式が用いられてきました.我々は非平衡系での2体分布関数が平衡系とは異なることが体積粘性の原因であることを突きとめ,原子間の相互作用と2体分布関数を用いて体積粘性率を表す新しい公式を導きました.この公式により原子間ポテンシャルの形や実験条件と体積粘性率の関係を容易に議論できるようになりました.この公式を用いてレナード・ジョーンズ流体の体積粘性率を計算し,既存の方法による結果および希ガスの実験値と定量的によく一致する結果を得ました.

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