2.1 タンパク質の温度変性,圧力変性

タンパク質は温度を上げたり,圧力をかけると壊れてしまいます.これまでのシミュレーション手法では,実験条件と同じ様に一定圧力のもとで温度を上げた場合にタンパク質がどう壊れるか,あるいは一定温度のもとで圧力を上げた場合にタンパク質がどう壊れるか理論的に調べることができませんでした.

そこで最近,我々はこの問題を解決するための有力な手法「マルチバーリック・マルチサーマル法」を最近提案しました.この方法でシミュレーションした結果,下図に示すように繰り返しタンパク質を折りたたんだり,ほどいたりすることに成功しました.また温度を上げた場合と圧力をかけた場合でタンパク質の壊れ方がどう違うのかも明らかにしました

さらにこの方法を使って各構造間の部分モルエンタルピー差ΔHと部分モル体積差ΔVも計算しました.これらの量は溶液化学における重要な物理量なのですが,これまでは分子シミュレーションで求めることはできませんでした.これらの物理量を分子シミュレーションで求めたのはこの手法が初めてです.

今後この方法を用いることにより高温・高圧下での生体分子の構造や機能を理論的に研究できると考えています.

図 アミノ酸10個からなるタンパク質「シニョリン」のマルチバーリック・マルチサーマル分子動力学シミュレーション.天然構造からのずれ(RMSD)が小さくなったり(=折りたたんだり)大きくなったり(=ほどけたり)しています.

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